だってあなた私のことなんかいらないんでしょ? だなんてそんな寂しそうな顔で簡単に言ってのけるから、そうだよなんて言えるはずもなくだからといって抱きしめられるわけもなくだから俺はずっと果物ナイフの柄を握り締めて震えていたんだ何か文句はあるってのかい?
わたしはいま波のうえにたっています。北極あたりの海でしょうか。
青い波が私の足元をとおりぬけていきます。少しくすぐったさを感じます。
まるで草原みたいな色の海でした。とてもとてもきれい、な色?
白いワンピースが風に揺れます。わたしはつぶやきました。
おかあさん。
ごおお、というとても大きな音がしました。ひときわ大きい波が私の右から迫ってきます。
私は遠くの澄んだ空をずっとずっと見ていました。宝石のようでした。
どしゃ、という音が耳元で鳴りました。わたしは緑の波におしつぶされます。
泡がひろがり、光が碧の波を照らしました。宝石のようでした。
やがて波は穏やかになりました。そこにわたしの姿はありませんでした。
白い布きれがうかびあがります。だれもいなくなってしまいました。
手繰り寄せれば手繰り寄せるほど君が遠くなっていくきがするんだ、それは当然の結果であってそして当然の結果だと思うんだけど、なんだか不思議だと思わない?でも僕は思わない。
聴きなじんだあの童謡みたいに
君の皮を一枚一枚ピンセットで丁寧に剥がしていったら
最後には何も無くなってしまうのかな
つまるところ僕はそれだけがみたい。
カランコロン カランコロンと 下駄の音を立てながら
提灯の薄明かりと少し焦げ付くような匂いの中 君はゆっくり走ってくる
随分遠くで花火が鳴ったよ 線香花火はまだ落ちない
次に燃やすのは何の思い出?
(ひたり、ひたり)
お願いだから怖がらないであなたは決してひとりじゃないわ
(ひたり、ひたり)
わたしはあなたのうしろにいるの、ずっとあなたを見守っているの
(ひたり ひたり)
ねえわたしの、わたしの足音はきこえる?
(ひた、)
椅子はちゃんとしまいましたか、靴はちゃんとそろえましたか
予鈴のチャイムは鳴り終えましたか、忘れ物はありませんか
今度は君が飛び出す番さ、さあさあ飛び込め真っ赤なプール!
共存なんてありえないよだってくろとしろは灰色になるしこおりはとけて水になるでもそれをもしももしも共存とよぶことができたらできたならぼくときみは一になってまじってとけてこのごみだらけの世界をとびまわってやるとも さ!
ひっかきます。傷ができます。血がでます。やがてかたまります。そのかさぶたをはがします。血がでます。やがてかたまります。そのかさぶたを、また。
かさぶたは周りの皮膚をまきこみ、少しずつおおきくなっていきます。そのかさぶたを、また。
きがついたときには。
つまり、
(人生なんてそんなものだということです。それに気付かずもがいているあなたに、わたしはそれを教えてあげたい。)(わたしがこわいのは、それ。)
理由なんかいらないんだと青白い夜に呟いた君が一番理由を欲していたことを相も変わらず僕は忘れていません。(だって理由さえあれば君の犯した罪の八割が僕と共に海の藻屑へと消えてしまうんだもの。そんな単純で狡猾な話を君が見逃してくれたのは、君が頭の片隅どこか僕の入れない領域で僕を少しだけでもたった少しだけでも愛してくれた証だとそう信じてもいい?)結局理由を見つけられずに君は空の小さな塵にでもなってしまった。(理由なんかいらないんだと呟くのは今度は僕の番。)僕は窓辺で君を待つ。
きみをみてると安心します。きみをみてると不安になります。仕方がないんです、どちらも同じことだから。
愛は化け物だ。
理由なんかいらないんだとあの夜私は叫びました。不恰好な三日月でした。(あの日あの時私はそれを嘘だなんて思ってなかった。それだけは本当、疑り深い貴方は信じない。)でもそれは嘘でした。私がたったいままで(精一杯目を反らして)探していたのは、罪の償い方なんかじゃなかった。さわってみればこんなにも違った。明日の夜私は貴方の夢枕にたてるかしら?(お願いだからその時は、幻想なんて陳腐な言葉になんかしないでね。)
きえてしまえと叫びました
きえてしまえと叫びました
きえてしまえと叫んだ彼は
ビルからおちてしにました
受話器の向こうで叫んだ彼が、
笑っていたのか泣いていたのか
どうしてしのうと思ったのか
どうしてしんでしまったのか
結局最後までわからないまま
電波がひめいをひろいました
遠くでカラスがわらいました
わたしは受話器を両手でだいて
きえてしまえと呟きました
ぼくらは両手にたくさんの手錠をからみつけて
(そのうちのひとつは君とつながっているんだよ、知っていた?)
病気みたいに少しずつ世界にむしばまれていくんだ
次はハトにでもうまれておいでよ
純白がいいな、ほら見えるだろう? あの歪な満月の色さ
今度こそ、今度こそ、その翼をつかまえていてあげる
笑顔をいちまい剥がしたところに
何 が潜んでいるか
わたしが知らないわけではないことを
あなたが知らないわけでは、ないでしょう
もういいかい まあだだよ
笑いながら駆け出した私に
影はもうついてこない
雨雲は夕日をかくして
ゆらりゆらりと笑っている
さざなみのような不安が
首にじょうずに絡み付いて
やさしく喉を締め上げる
(さんそ、が足りない!)
もういいかい もういいよ
あの子はさがしに来てくれないって
私は薄々気付いてる
狂いだしそうな泣き顔で、
「畜生!」
怒声
私宛じゃないけど
ちょっとどきどきする
好き
ちょっと嘘
でもほんと
歩いたそばからがらがら崩れてく。足のうごきはタップダンス。もどき。だってできないんだもの。
(そんな足場が、どこかへ行ってしまった。もうなにも覚えていない。ちょっと悔しい。)