#0021

  愛しているという響きが、どれほど偉大なものだったか!

#0022

今朝も花芽を引きずり出した太陽は
誰かと手を繋ぐことは、二度とない

#0023

すくいを求めるも
恨みごとを呟くも

僕らのことばは光にはなれないので
2万と8000年の時間を経ても
太陽に届いたことは
実はいちども ない

誰かを生かすも殺すも
すべて成し遂げてきた彼なのに、

#0024

ただあるがままの太陽に
意味を見いだすことにしたのは
最初にそれをしたのは だあれ?

はじめに地球に息づいたいきものが
重いまぶたをあけたとき

きっと太陽は呪われてしまったのだ

太陽をむさぼるいきものたちに
希望とちからを与えながら

身をけずり朽ちていく呪いに
いつしかとらわれてしまった
彼は

#0025

「おなかを空かせた生き物を、ひろってきたんだ」アパートのドアを開けるなり、きみが言った。「へえ、それは猫かい?」「ちがうよ、もっとおおきいよ」「じゃあ、それは犬かい?」「ちがうよ、もっと賢いよ」「チンパンジー」「もっと、もっとだよ」ふうむ、僕は首を傾げた。答えは察する。でもどうしよう。

「まいったな、冷蔵庫の中には腐りかけのみかんしかない」「なんで? 他のものはどうしたの」「サラダとか牛乳とかお魚なら、ぜんぶ捨てた」「あら勿体無い」「……と、言いたいところだけど、全部戸棚の中に移した」だって、腐ったみかんが一つあったら、他のみんなも腐っちゃうんでしょう。僕が言う。「うん、それはちょっと違う気がするけど。でもなんで、みかんの方を冷蔵庫に入れたの?」この暑さで戸棚なんかに入れといたら、それこそ腐るでしょうに。きみが言う。「それはもちろん、ぼくが腐ったみかんだからさ」「ふうん」きみは解ったような解んないような目をした。(どんな目?)どっちでもいいから、そろそろアパートのドアを閉めてくれないかな。冷たいの が逃げちゃう。ね。

きみの隣で居心地の悪そうに影が動く。確かにそれなりに大きい影だ。僕のところからは見えないけど。「ところで、何を連れてきたの? おなかを空かせた動物が、いるんでしょ、そこに」「ああ。それなら、」「ていうか、食べ物なんてないよ、ここに。人間さまの口に合うようなものなんて」「ああ。それなら、」きみは、にいっ、と笑った。きみの口が裂けていく。(ような錯覚。たぶんね)その笑い方、やめてくれないかなあ。口裂け女って苦手なんだ。お世辞は言うのも言われるのも嫌い。本当のことは本当のことで、言うのも言われるのも怖いんだけどね。「いるじゃないか、ここに」

ずらりと並ぶ鍵盤みたいな牙が見える。赤い舌がちらりとのぞく。きみの裂けた口から!きみはそんな鋭い牙を持っていたんだね。いいなあ、僕もほしい、それ。お世辞じゃないよ。本当だってば。まったく、きみに関しては、まだまだ知らないことばかりだ。(きみはどんなきもちでここにきたんだろう ?)(僕がいなくなることを、少しも、少しも怖がらなかったのだろうか)きみの癖とか嘘をつくときの仕草とか、色んなことを知りたいよ。きみの美しい牙が、今ここで、僕の喉仏に喰らいつくのでなければ。

だって、きみの顔も名前も、ぼくはよく知らないんだもの。